2017冬vol.43
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ポーツの世界でプロとして生きていくことは容易ではない。しかも、勝ち負けがはっきりしている世界にあって、実力のみならず運も明暗を分けるものだと思わせるかつての野球青年がいる。野球一筋で生きてきた一度目の人生。現在はスポーツ担当の爽やかな営業マンとして全国を駆け回る社会人一年生。小学生の頃にサッカーから転身。以降、クラブチームはもちろん、名門校といわれる学校でも、その抜群の運動神経とピッチングスキルで常にエースとして活躍してきた。高校2年の甲子園決勝では2年生ながら、決勝での登板を指名されたが雨天により2日間の順延。その雨は彼にとって恵みの雨とはならず3年生のエースがその間に復調し、決勝戦で彼がマウンドに立つことはなかった。翌年の県予選決勝は、正真正銘のエースピッチャーとして一年前の悔しさを晴らす大会。しかし、その直前の怪我で一度もそのマウンドに立つことが出来ず無念を残した。プロの道が遠のく中、大学野球から熱烈なオファーを受け進学。大学リーグでも一目置かれる活躍を見せ、ソフトバンクからドラフト指名の可能性を示唆されるも、当日名前がコールされることなく学生野球が終わったという。その後、スカウトで入団した地域リーグでは、3年を目途にその上を目指した。そして「やることはすべてやった」と、清々しくすべての野球人生を閉じた。150㎞に届く球を投げる男である。そして絵に描いたような好青年である。その甘いマスクと見上げるほどの長身と共にプロの世界でも目立つ存在になったに違いない。しかし、プロを目指してきたからこそ、大事な試合、大きな局面で披露する機会を失い、もしも、あの時…という思いに苛まれてきた野球人生だったと笑う。かつての多くのチームメイトたちが現在もプロとして活躍していることも称賛することはあっても未練はないと胸を張る。今までとは違う新しい挑戦をしたかったのだという。野球を通じて出逢った人脈を今の仕事に生かしながら、自分にしかできない仕事を任せられている。今、人生の新しい大勝負に挑もうと二度目の人生を歩き始めた彼のマウンドには、あれほど切望した熱い期待と声援が注がれている。       ス文:晴日夜更けのRecollectionコラム1620二度目のマウンド旅びとよ

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