2017冬vol.43
20/25

家族の顔を温かく染める“炎の色”子供の頃、両親はテーラーを営んでいた。当時“背広”はテーラーで作るのが主流だったので忙しかった。納期に間に合わせるため毎日夜中まで働いていた。夜9時ごろ小休止。行く場所は決まっていて、歩いて10秒のところにあるホルモン焼き。四六時中、顔をつきあわせて働いていて忙しさも手伝い、口ゲンカが絶えなかった。子供のくせに宵っ張りだった私が起きていると一緒に連れてってくれた。七輪が運ばれ、おこった炭のオレンジ色が両親の顔を染めると、途端に仕事の時の厳しい顔が消えて、優しい仲良しの顔になる。その顔を見るのが好きだった。炭の中に宿る炎の色は、人間を優しく、穏やかにし、元気と勇気を与えてくれる。昔の家には一年中どこかに炎の色があった。かまど、囲炉裏、火鉢。その色を囲むことで、家族の団らんが生まれた。“火”を中心にみんなが笑顔になれることを先人は知っていたのではないかと思う。温かい料理を作る為だけではない、心に届く特別な力があることを。家を建てた時にどうしてもとお願いして、小さな囲炉裏を作ってもらった。大好物の氷下魚(こまい)を焼きながら子供たちとゆっくりとした時間を過ごすことができる。炎の色がなかったら決してできない話。旅先で出会った景色やおいしかった食べ物。学生時代の思い出話。そんな会話を“炎の色”は、家族の顔を染めながら黙って聞いてくれている。撮影:林家たい平 林家たい平1964年、埼玉県秩父市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、林家こん平に入門。2004年からNTV「笑点」のメンバーとなり、お茶の間で人気に。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2016年、NTV『24時間テレビ39愛は地球を救う』でチャリティマラソンランナーに抜擢されるなどTV出演も多数。今後の落語界を担う、今最も注目を浴びる落語家。    21林家たい平のVol.17

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る